ヴァンヌッチ博士とステイヤルト博士のご逝去

2021年1月にマルタ・ヴァンヌッチ博士が、そして2月にとマーク・ステイヤルト博士がお亡くなりになりました。お二人の御霊の安らかな眠りを心からお祈りします。

マルタ・ヴァンヌッチ博士は、2021年1月15日にブラジルで、マーク・ステイヤルト博士は、同年2月13日にフランスでお亡くなりになりました。ヴァンヌッチ博士は99歳、ステイヤルト博士は87歳でした。お二人は、ISMEのようなマングローブ生態系の保全と再生に関する国際的なNPO/NGOの必要性をご提唱され、それが契機の一つとなって、1990年にISMEが設立されました。お二人は、ISME設立後も活動の推進に大変重要な役割を果たしました。ご生前のお二人の国際的なマングローブ生態系の保全・再生活動へのご貢献に心より感謝するとともに、謹んで哀悼の意を表します。


Dr. Marta Vannucci

マルタ・ヴァンヌッチ博士は1921年にイタリアのフィレンツェ(英名ではフローレンス)で生まれ、その後、1930年に家族と共にブラジルに移住しブラジル市民権を得られました。ヴァンヌッチ博士はサンパウロ大学で博士号を取得され、生物海洋学がご専門でした。サンパウロ大学海洋学研究所の所長(1963-1969)を務められるなどの間に、100本以上の科学論文を発表するなど研究者として活躍しておられ、1966年に女性として初めてブラジル科学アカデミーの正会員に選出されました。

1970年にUNESCOに籍を移し、インドのコーチン(Cochin、現在はコチ(Kochi)に名称変更)にあるインド洋生物センターで、国際インド洋遠征プランクトンコレクションのキュレーターとして大きな功績を残すなど、インドではニューデリーを中止に40年間以上住んでおられました。インド在住中に、UNESCO / UNDP(国連開発計画)からの要請を受けて、アジア、ラテンアメリカ、アフリカの生態学的および環境プロジェクトに関するコンサルタントに就任され、 1982年から1990年まで、アジア太平洋地域のUNDP / UNESCOマングローブプロジェクトのチーフテクニカルアドバイザーとして、アジア・太平洋のみならず、アフリカや中南米を含めた地球規模でのマングローブ生態系の保全と、ネットワーク作りにご尽力されました。そして、その間のネットワーク作りの成果が、1990年のInternational Society for Mangrove Ecosystems(ISME)の設立となったのです。 ヴァンヌッチ博士は、1990年から1999年までISMEの副会長、1999年に会長代理、2000年から名誉顧問を務められました。ヴァンヌッチ博士は、人生のほとんどを海洋学や沿岸および海洋環境のご研究と、世界のマングローブ生態系の保全・再生のために費やされました。 1997年に、ご功績により、ブラジル大統領から勲章を授与されました。 ヴァンヌッチ博士は、学問に対しては厳格でありながら、機知に富んで、とても人の心をひきつける方でした。海洋学の分野だけではなくて、世界中の多くの人々に、大きな影響力を持った方であり、マングローブに関する科学者や関係者の多くは、ヴァンヌッチ博士を「Mother of Mangroves(マングローブの母)」と呼んでいました。


Dr. Marc Steyaert

マーク・ステイヤルト博士は、ベルギー人のご両親がコンゴ民主主義共和国におられたこともあり、1934年にコンゴでお生まれになりました。コンゴでお生まれになったこともあり、若い頃は、アフリカの農学研究ステーションで農学者として訓練を受けられましたが、その後、パリ大学で海洋学の博士号を取得されました。海洋科学者となってからは、南極での海洋探検に従事し、1960年代には、南極だけではなく、数々の海洋探検に参加しながら、地中海での海洋科学研究に邁進されました。

1967年、ステイヤルト博士はUNESCOの海洋学研究室(後のUNESCO海洋科学部)に奉職され、1973年には、同部局の部長となりました。部長になってからは、UNESCOの沿岸海洋プロジェクト(COMAR)の形成と実施に尽力されました。沿岸海洋学の研究やプロジェクトを実施される中で、マングローブ生態系の重要性を認識し、同じ海洋学者としてインドにおられた、旧知のヴァンヌッチ博士に、コンサルタントやチーフテクニカルアドバイザーを依頼し1982年から1990年にUNESCO/ UNDPのアジア・太平洋地域でのマングローブプロジェクトを実施しました。 ステイヤルト博士とヴァンヌッチ博士のお考えと国際的なネットワーク作りが発端となって、ISMEが設立されたので、お二人の出会いとマングローブに関するUNESCO/UNDPプロジェクトがなければ、ISMEの設立はなかったのかもしれません。

1995年にUNESCOをご退職後、ステイヤルト博士はISMEの財務担当理事(1996年から1999年)および副会長(1999年から2005年)を務めました。ステイヤルト博士は、学術的な面だけではなく、行政的な面でもとても有能な科学者であり、海洋学、沿岸域や海洋生態学の研究と、マングローブ生態系の保全・再生に尽力された優れた国際的な研究者でした。 ステイヤルト博士は謙虚で、優しく、寛大で、常に広い心をもった国際人でした。


ISMEの設立ばかりではなく、これまでの国際的な活動と生態系や地球環境の保全に多大な貢献をされましたマルタ・ヴァンヌッチ博士とマーク・ステイヤルト博士が、亡くなられましたが、お二人の遺志を引き継ぎ、私たちは、これまで以上に、マングローブ生態系の保全と再生と通じて、地球環境保全のために国際的なネットワーク作りに努力したいと思います。 お二人に出会われたすべての方々の心の中に、これからもお二人が生き続けますよう、心よりお祈り申し上げます。