論文のタイトル:Findings from long-term monitoring studies of Micronesian mangrove forests with special reference to carbon sequestration and sea-level rise
(https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.12346)
論文のご紹介:南山大学教授の藤本潔氏と、そのチームが、人々の生活の影響を大きく受けることのないミクロネシア連邦のポンペイ島で、25年間以上にわたってマングローブ林を調査し、その成果が2022年7月 21 日付のEcological Researchで公表された。ポンペイ島で長期間(25年間以上)にわたるマングローブ林の森林動態、炭素蓄積機能、マングローブ林に及ぼす海面上昇の影響が明らかにされた。同島は1974~2020 年の平均海面上昇が年3.9mmと、全球平均(年 2.0mm)を上回っており、しかも調査開始前年の1993年から2010年の間は年平均8.3mm と急激な海面上昇に直面していた。マングローブは立地条件によって構成樹種が異なることから、優占樹種で群落を区分すると、オヒルギ優占群落や、海岸前面に成立しているマヤプシキ優占群落は既に海面上昇の影響を強く受け、土壌表面の侵食が始まっていた。それに対して、支柱根を発達させ、マングローブ泥炭を堆積させるヤエヤマヒルギ属のヤエヤマヒルギ群落やフタバナヒルギ群落では表層侵食は認められず、むしろ地盤高の上昇が観測された。 マングローブ林に及ぼす海面上昇の影響に関しては、これまでマングローブ林全体を一括りにして、そこでの堆積速度と海面上昇速度の相対関係で予測されてきたが、実測データに基づき群落ごとにその影響の現れ方が異なることを明らかにした世界初の報告であることが、本論文の特筆すべき点である。群落ごとの土壌堆積速度よりも、海面上昇に伴う侵食速度が速ければ、マングローブ林の存続そのものが脅かされることが懸念されるなど、海面上昇がマングローブ林に及ぼす影響を群落ごとに考える上で、極めて貴重な論文なので、是非、ご一読頂きたい。
掲載雑誌名と著者:Kiyoshi Fujimoto1, Kenji Ono2, Ryuichi Tabuchi2& Saimon Lihpai3. Findings from long-term monitoring studies of Micronesian mangrove forests with special reference to carbon sequestration and sea-level rise. EcologicalResearch,1–14 (2022).
1Faculty of Policy Studies, Nanzan University, Nagoya, Japan. 2Forestry and Forest Products Research Institute, Tsukuba, Japan. 3Division of Forestry and Marine Enforcement, Department of Land, Pohnpei State Government, Kolonia, Micronesia.
URL: https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.12346
東京農大出版会から、オーストラリア国立海洋科学研究所(Australia Institute of Marine Science: AIMS)のマングローブ研究者であったダニエル アロンギ(Daniel M. Alongi)博士の著書である「The Energetics of Mangrove Forests」の翻訳本の『マングローブ林の生態系生態学』が出版されました。
海と陸のエコトーン(移行帯)に位置するマングローブ林は、他の森林にはみられない特有の生態学的特徴を持っております。本書は、その独特なマングローブ林の成り立ちとこの森に依存して生きる様々な生物の挙動を、生態系生態学的な視点からまとめられ、マングローブの生理生態、生産や分解、真菌・細菌・プランクトン・エビ・カニ・魚類など多くの生物分類群の生態や生態系機能、土壌・水・セジメントの物理化学性、様々な形態の炭素・窒素・リン・微量元素の貯留や動態について、多数の研究例を引用しつつ詳しく紹介されています。
また、私たちは、マングローブ林を、そこに住む人々の生活の場、森林資源や観光資源として、エビ養殖池造成による環境破壊のシンボルとして捉える傾向にありましたが、最近は、地球温暖化を抑制するための重要なブルーカーボン(Blue carbon:海域で貯留される炭素)の貯留地として、とても注目されています。
マングローブに関する幅広いトピックを、生態系生態学的視点から読み解く面白さを、研究者や大学生だけではなくて、環境NGO/NPOの方々をはじめ、多くの方々に知ってほしいと、本書を翻訳しましたので、是非、手に取って頂ければ幸いです(翻訳者一同)。
【書名】マングローブ林の生態系生態学
【訳者】今井伸夫・古川恵太・中嶋亮太・檜谷昴
【原書名】The Energetics of Mangrove Forests(Springer)
【原著者】Daniel M. Alongi
【ISBN】978-4-88694-505-1
【仕様】四六判・並製・296ページ
【発売】2021年4月3日
【定価】2,500円+税
【発行】東京農大出版会
【東京農大出版会 紹介URL】
http://www.nodai-shuppan.or.jp/list.php?cat=0
【東京農大出版会 注文URL】
http://www.nodai-shuppan.or.jp/purchase/
【内容】
第1章 序論
第2章 樹木と樹冠
はじめに / バイオマス配分(樹木のバイオマス配分, マングローブ林バイオマスのグローバルパターン, 栄養塩の配分) / 生理生態(酸欠, 塩分, 炭素固定と水分損失のバランス) / 樹木の光合成と呼吸(光合成速度, 呼吸) / 一次生産(方法とその限界, 一次生産の炭素配分, 純一次生産, 栄養塩制限とその利用効率, 他の一次生産者) / 樹冠と根の表在性生物
第3章 水とセジメントの動態
はじめに / 潮汐(潮流と地形, 水流と植生や他の生物構造との関係) / 地下水 / 波 / セジメントの輸送と凝集 / 堆積と降着:短期と長期のダイナミクス / 水とセジメントがもたらす化学的・生物学的な影響
第4章 潮汐水の生物
はじめに / 物理化学・生化学的な特性 / 微生物のループ、連鎖、ハブ / 植物プランクトンの動態 / マングローブ水域は従属栄養か独立栄養か? / 動物プランクトン(個体数、種組成、バイオマスに影響する要因, 食物と摂食速度, 二次生産) / ネクトン:食物、成長、栄養リンク(クルマエビ類, 魚類) / マングローブと漁業生産との関係
第5章 林床
はじめに / 土壌組成と物理化学性 / 林床の生物(カニによる散布体とリターの消費, リターの微生物分解パターン, 生態系エンジニアとしてのカニ類, 他の大型底生生物の栄養動態, 枯死木の分解, 根の分解) / 森林土壌における微生物プロセス(細菌による土壌有機物の分解速度とその経路, 硫酸還元, 鉄還元とマンガン還元, メタン放出, 窒素プロセスと樹木とのつながり, リン循環)
第6章 生態系動態
はじめに / 物質交換:流出仮説(海洋と大気への炭素放出, 溶存態窒素・リンの交換) / マングローブ生態系における炭素収支(生態系全体における炭素収支, マス・バランス(物質収支)法) / マングローブ生態系における窒素フロー:Hinchinbrook島の例 / 栄養塩循環 / 生態系解析:生態系機能間のリンクの理解(ネットワークモデル, 生態水文学:生態系管理に向けた物理学と生態学のリンク) / 生態経済学とマングローブの持続可能性(資源経済モデル, 生態系データを使って持続可能性を定量化する)
第7章 結論
グローバルな視点から(物質収支とその意義, 海洋炭素循環におけるマングローブの寄与) / マングローブ林のエネルギー動態において最も重要な事実 / エピローグ
引用文献